整体院の経営で最も判断が難しいのが人件費率と損益分岐点の見極めで、基準を知らずに採用すると赤字化するケースが目立つ。

この記事でわかること

  • 整体院における人件費率の適正水準と業種別の目安数値
  • 損益分岐点売上高の計算方法とシミュレーションの手順
  • スタッフを雇う前に確認すべきチェックリスト
  • 人件費率が高くなりすぎたときの立て直し方
  • バディフルが支援した院での実際の判断プロセス
結論:整体院の人件費率の適正水準は40〜50%が目安で、損益分岐点売上高を先に計算してから採用を判断するのが安全な順序だ。

整体院の人件費率、適正水準はどこか

整体院・治療院業界では、自費施術を中心とする院の人件費率は40%台後半、保険診療を主とする整骨院・接骨院では35%前後が目安とされることが多い。これは中小企業庁が公表する「中小企業実態基本調査」のサービス業全体の労働分配率(人件費÷付加価値額、おおむね40〜50%台で推移)とも近い水準で、業界特有の異常値ではない。

ただし院長自身の施術報酬を人件費に含めるかどうかで数値の見え方が大きく変わる点には注意が必要だ。院長を人件費から外して計算すると人件費率は実態より低く出るため、スタッフ採用の意思決定では「院長の人件費相当額」も含めた実質人件費率で判断するのが原則になる。

人件費率が高くなりやすい3つの要因

現場で人件費率が適正水準を超えてしまう院に共通する要因は次の3つだ。

  • 客単価が低いのに施術者を増やしてしまい、1人あたり売上が回収ラインを下回る
  • 予約枠の稼働率が70%を下回り、人件費に対する売上効率が悪化する
  • 採用時に固定給を高く設定しすぎ、売上が伸びる前に固定費が先行する

特に多いのは2つ目の稼働率の問題で、施術者を増やしても予約が埋まらなければ人件費率は下がらない。採用は「人が足りないから」ではなく「稼働率と客単価から見て採用しても損益分岐点を超えられるか」で判断すべきだ。

整体院 人件費率 損益分岐点の計算方法

損益分岐点売上高は「固定費 ÷(1 − 変動費率)」で計算する。整体院の場合、固定費には人件費(固定給部分)、賃料、リース料などが入り、変動費には施術材料費や業務委託費、決済手数料などが入る。

たとえば月間固定費が180万円(うち人件費110万円)、変動費率が15%の院であれば、損益分岐点売上高は「180万円 ÷(1−0.15)」で約212万円になる。この院が新たにスタッフを1人採用し、固定人件費が月30万円増えて210万円になった場合、損益分岐点は「210万円 ÷ 0.85」で約247万円に上昇する。採用によって損益分岐点が35万円上がった分を、新規の稼働率や客単価アップで埋められるかどうかが採用判断の分岐点になる。

この計算を採用前に済ませておけば、「採用してから売上が足りているか確認する」のではなく「採用しても損益分岐点を超えられる根拠があるか」を先に確認できる。順序を逆にしないことが、人件費率を適正水準に保つ最大のコツだ。

損益分岐点は一度計算したら終わりではなく、毎月の実績と照らして更新すべき数字だ。固定費は人員が増減すれば変わり、変動費率は施術メニューの単価構成が変わるだけでも動く。月次の会議で「今月の損益分岐点売上高」と「実際の売上高」を並べて確認する習慣がある院は、人件費率の悪化を数ヶ月単位で早期に検知できる。逆にこの確認を年1回の決算時にしか行わない院は、悪化に気づいた時点で既に半年以上人件費率が高い状態が続いていたというケースが多い。

業種別・業態別の人件費率比較

業態 人件費率の目安 特徴
自費中心の整体院 40〜50% 客単価が高く施術者の技術差が売上に直結しやすい
保険診療中心の整骨院・接骨院 33〜38% 回転数重視でスタッフ数が多くなりやすい
美容室・サロン 45〜55% 指名制で人件費率が高めでも成立しやすい
一般サービス業平均 40〜50% 中小企業実態基本調査の労働分配率に近い水準
飲食店(参考) 25〜30% 材料費(変動費率)が高く人件費率は低めに抑える傾向

整体院は自費・保険の比率によって適正水準の幅が広いため、自院の施術単価構成を踏まえて上表のどこに位置するかをまず確認するのが実務的だ。人件費率が上表の目安を10ポイント以上超えている場合は、採用よりも先に稼働率や単価の改善に着手した方が損益分岐点を下げやすい。

スタッフを雇う前に確認すべきチェックリスト

採用の意思決定は感覚ではなく、以下の順序で数字を確認してから進めるとぶれが少ない。

  1. 直近3ヶ月の人件費率が業態別の適正水準(30〜50%台)の範囲内かを確認する
  2. 現在の固定費と変動費率から損益分岐点売上高を算出する
  3. 新規採用後の固定人件費を加えた損益分岐点を再計算する
  4. 上昇した損益分岐点を埋められる新規予約数・客単価アップの根拠を数値で示す
  5. 既存スタッフの稼働率が70%を下回っていないかを確認する(下回っていれば採用より稼働率改善を先にする)
  6. 採用後3ヶ月・6ヶ月時点での人件費率の想定シナリオ(悪化・想定通り・改善)を作っておく

この6ステップを踏むだけで、「勢いで採用して人件費率が跳ね上がる」という最も多い失敗パターンを避けられる。

バディフルの支援事例

バディフルではこれまで500院近くの整体院・治療院の集客・経営をサポートしてきた中で、人件費率と採用タイミングの相談は特に多いテーマの一つだ。支援先の院長と現状を集客・オペレーション・コンテンツ・分析・チームの5観点で分解すると、最初に手を打つべき領域が30分程度の対話で明確になるケースが大半だった。人件費率の悪化を訴える院の多くは、実際には「人が足りない」のではなく「稼働率が上がっていないのに固定費だけ増えている」というオペレーションの問題を抱えていた。

また年間の売上目標を月次の必要新規数までギャクサン(逆算)して数値化すると、外注施策(広告・MEO・予約システム改善など)と院内の自助努力(稼働率改善・単価アップ・リピート施策)の役割分担が数字として見える化される。この逆算プロセスを経た院では、採用の是非を「感覚」ではなく「損益分岐点を超えられる根拠があるかどうか」で判断できるようになり、人件費率を適正水準の範囲内に維持したまま新規採用に踏み切れたケースが複数見られた。逆に、逆算をせずに採用を先行させた院では、半年後に人件費率が50%台後半まで上昇し、採用計画の見直しを迫られる例もあった。

数字で役割分担を可視化することは、採用判断だけでなくスタッフ本人の納得感にもつながる。「なぜ今この採用なのか」を院長が数値で説明できる院ほど、採用後の定着率も高い傾向がある。

人件費率が適正水準を超えたときの立て直し方

すでに人件費率が50%台後半以上になっている院では、以下の順で見直すと効果が出やすい。

  • 予約枠の稼働率を可視化し、空き時間帯の集客施策(MEO・リマインド強化)を先行する
  • 客単価を上げるアップセル・回数券導入で、1施術あたりの人件費比率を下げる
  • 固定給と業務委託・時給制のバランスを見直し、閑散期の固定費リスクを下げる
  • それでも改善しない場合のみ、シフト調整や人員配置の見直しを検討する

いきなり人員を減らす判断は、既存患者の離脱リスクも伴うため最終手段に位置づけるべきだ。まずは稼働率と単価という「分母」を改善する方が、患者体験を損なわずに人件費率を適正水準に戻しやすい。

よくある質問(FAQ)

Q: 整体院の人件費率は何%が適正ですか?
A: 自費中心の院は40〜50%、保険診療中心の院は33〜38%が目安だが、院長の人件費相当額を含めた実質値で判断することが重要だ。
Q: 損益分岐点売上高はどうやって計算しますか?
A: 「固定費÷(1−変動費率)」で算出する。人件費は固定費に含め、施術材料費や委託費は変動費に含めるのが基本的な区分だ。
Q: 人件費率が高くても採用してよい場合はありますか?
A: 稼働率が高く新規予約数の根拠が数値で示せる場合は、一時的に人件費率が上がっても採用が合理的なケースがある。
Q: 院長自身の報酬は人件費率にどう含めるべきですか?
A: 院長の施術報酬相当額も人件費に含めた実質人件費率で見ないと、採用判断の基準が実態より甘くなりやすい。
Q: 人件費率を下げるために真っ先にやるべきことは何ですか?
A: 人員を減らす前に、既存スタッフの予約稼働率を上げる施策と客単価アップの施策を優先するのが定石だ。

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